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名古屋人ランナーのご当地な日々

走った自分へのごほうびとしてご当地スイーツ&グルメを食べまくる、ダメダメな40代ランナーの日常。

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華やかなマラソン大会の舞台裏で、男たちの想いが交錯する

フルマラソンのペースメーカーというのは不思議な存在ですね。

選手ではないのにマラソン大会で先頭を走り、42.195キロのうち30キロを走り終えた時点でレースから離脱する。そこまでのスピードがどれほど速くても自分自身の記録にも栄誉にもならない。

30キロという長距離をハイペースで走るという、非常に労の多いことをしているにもかかわらず、応援や賞賛の対象になることはありません。


ふだん私が走っているような市民ランナー向けのマラソン大会ではペースメーカーの出番はありませんので、国際女子マラソン大会でもある名古屋ウィメンズマラソンに出場するまで「ペースメーカー」という人がいること自体知りませんでした。


名古屋ウィメンズマラソンでは、ペースメーカーの走る姿を間近で(と言っても一瞬ですれ違うだけですが…)見ることができます。正直、往路と復路ですれ違う一瞬では、ハイスピードで先頭を走っているペースメーカーは普通の選手とまったく区別がつきません。


堂場瞬一の小説「ヒート」(実業之日本社)によると、最近のマラソン大会ではペースメーカーはレースメイク上不可欠な存在で、選手たちの記録の良し悪しはペースメーカーにかかっていると言っても過言ではないのだそうです。


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この「ヒート」は、名古屋ウィメンズマラソンの直前に名古屋市の図書館に行ったら「マラソン応援コーナー」が設置されていて、そこに展示されていた陸上関係の本の1冊でした。

その時から気になってはいたのですが、ウィメンズの本番前は時間的にも気持ち的にもあまり余裕がありませんでしたので、今回あらためて読んでみることにしました。


あらすじ
神奈川県のスポーツ課職員・音無は、県知事のたっての希望で、日本人が世界新記録を出させるために新設される『東海道マラソン』の責任者となる。
新記録の実現にはスピードの出やすいコースと記録を狙える日本人選手だけでなく、優秀なペースメーカーが必要となると考えた音無は、長い下積み生活を送る苦労人ランナーの甲本をペースメーカー、傲慢な性格ながら実力は第一級の山城をメインの選手に据えようとするが、現役をやめて裏方に回るのを良しとしない甲本、他人に指図されず自分のペースで走りたい山城のどちらも承諾しない。交渉が難航したまま、大会本番までの1年半は飛ぶように過ぎていくが…


この小説の特色は、とにかくマラソン大会運営の裏側や裏方の人々にスポットを当てていること。3部構成になっていますが、第1部と第2部はときどき山城や甲本の練習シーンと、別のマラソン大会に参加した結果をはさむぐらいで、あとはひたすら東海道マラソンを開催するためのコース選定や交渉などの地味なシーンの連続です。

実際にマラソンで走る描写があるのは、やっと第3部になってからですが、それも前半は選手たちが自分の心身やコースの状態について語る、どちらかと言えば淡々としたモノローグの連続で、本格的な勝負が始まるのは後半からです。

なのに、ぐいぐいと話に引き込まれて、最後まで一気に読み通してしまいます。


裏方に徹するプロたちの見事さ
そもそも、大会の現場責任者である音無とペースメーカーの甲本は、普通なら小説の中ですら脇役や裏方になってしまうのに、この本では出場選手で優勝候補の山城と同格の主役扱いです。

特に音無は、冒頭で知事に無茶振りされてとまどっているあたりの描写ではごく普通の小市民のようにも思えますが、いったん本腰入れてマラソン大会の計画に取りかかるとこれが実に粘り強い!

音無の要請を受けたくない山城も甲本も、彼をうっとうしがって非常にすげない態度を取るのですが、めげることもなく淡々と、それでいて食らいついたら放さないしぶとさには、職業人のはしくれとして本当に頭が下がります。

一匹狼で唯我独尊な山城にさえ「あの男は簡単にあきらめるタマじゃない」と、ある意味で恐れられるのはすごいことではないでしょうか(^_^;


30キロを一定のペースで走る訓練を積み、本番ではあくまで正確なタイムを刻んでレースをリードしようとする甲本も、ネガティブでグチが多い欠点はありますが、引き受けた以上はペースメーカーとしての責務をきっちりと果たそうとする現場のプロと言えます。

第1部と第2部で音無が重ねるコースの下見などの地道な努力、第3部前半で山城にかき回されつつも甲本が行う正確なペース配分、こうしたある意味地味な描写の積み重ねの上に、クライマックスで繰り広げられる山城と甲本のデッドヒートの興奮がある。

見る人を引きつける華やかな表舞台が、裏方の地道な努力の積み重ねの上に成り立っている、実社会そのままの構図だと思いました。

この本はマラソンを題材にしたスポーツ小説であると同時に、そんな裏方のプロたちの仕事ぶりを描いた職業小説としての楽しみ方もあるのではないかと思います。


最速で過保護なマラソン大会
この話でちょっとショックだったのは、神奈川県知事が東海道マラソンを立ち上げようとする理由として「市民ランナーが大勢参加する大会は単なるイベントで、競技の裾野を広げる役には立たない」という発言をしていることです。

それを聞いた音無も、「仮装ランナーの出場が認められるような大会にスポーツとしての意味があるとは思えない」と内心で同意しています。

まさに、万単位の市民ランナーが出場する大会に仮装して参加した素人としては耳の痛い話ですが(^_^;
 

でも確かに、競技のレベルの底上げには記録を出せる選手が必要という主張にはうなずけるものがあります。


さて、その知事の至上命令を受けた音無。最速コースをセッティングする上で、彼がこだわったのは以下のような点でした。

  • 道幅が広い
  • 強い風が吹かない
  • 近くに悪臭の発生源がない
  • アップダウンが少ない
  • カーブやコーナーが少ない
  • それでいて景色の変化に富む(目標物が多いと気がまぎれやすい・ペースがつかみやすいため)
  • 緑が多い、川が近いなど(視覚的に涼しさを感じさせるため)
  • 沿道の観客から声援が受けられる(精神的に励みになるため)

などなど、言われてみると一応フルマラソン経験のあるランナーとしてはいちいち「確かに~!」とうなずけることばかりです。


こうした条件のそろったコースを探すことはいわば正攻法ですが、音無の工夫はそれだけにとどまりません。ある意味邪道な、ルールすれすれの方法まで使ってタイムを縮めようとします。

許される誤差の範囲内(1000分の1以下)でコースの全長距離を短くする。
・横風の強いポイントでは、風を防ぐための大きな看板を立てる。

さらに、選手が腕時計を見ることでペースを崩さないように、先導する白バイにパネルを積んでタイムを表示したりもします。まさにいたれりつくせり!

だからこそ、山城が「こんな過保護な状態で出した新記録に何の意味がある」と反発を感じたりするのですが…


甲本が務めるペースメーカーも、山城の考える「過保護」の要因の一つです。

この本の中で、音無が甲本を説得する時に「今のマラソンは30キロまではペースメーカーを使って体力を温存し、30キロ以降で勝負に出るのが普通」と説明するシーンがあります。

実際、名古屋ウィメンズマラソンの中継を後で見てみたら、まさにその通りのレース展開でしたね。優勝したキルワが2番手のコノワロワ、3番手の前田を大きく引き離したのは、ペースメーカーが離脱した30キロ以降でした。


私も一度だけ、トライアルラン2015でペースメーカーの方の後ろについて走ったことがありますが、確かにこれは普通に走るより楽です。

すぐ前に人がいることで空気抵抗が小さくなるとも聞きますが、その点は空気抵抗が気になるレベルの速さで走っていないので正直よく分かりません(^_^; まあ、向かい風の強い日なら違ったんでしょうが…

それでも、自分でペース配分をする必要がなく、何も考えずにただ走ればいいという点は非常に楽に感じました。スピードが上がる分、より空気抵抗を受けることになるトップクラスの選手であれば、風よけになってくれるペースメーカーはますます重要な存在になるでしょう。

なので、運営側がペースメーカーを用意することを山城が「過保護」という感覚も理解できます。そもそも、勝負が30キロ以降だけだというなら、そこに至るまでの30キロという距離は何なんだっていう話ですし。


結局、奇跡を生み出すのは人間。
強要されて走ることを嫌う山城に東海道マラソンへの出場を決意させたのは、箱根駅伝の学連選抜チームの仲間でキャプテンだった浦の存在です。

そして、一度は出場を決めたものの、このマラソン大会が何から何まで自分に新記録を出させるためにおぜん立てされたものだと知り、「作られた奇跡に興味はない」と途中でレースを放棄する決意をしていた山城に火をつけたのはやはり浦の存在であり、そしてペースメーカーとしての役割を越えて最後まで走ることを選んだ甲本でした。

そして、30キロ以降のレース展開は、最後まで見る者に予断を許さない、ゴールするまさにその瞬間まで目の離せないデッドヒートとなり、最初は山城に勝負を挑んだ甲本の勝手な行動を憤っていた音無ですら、最後には職務を忘れてただの陸上ファンに戻ってしまいます。

おそらく、山城が素直な性格で、おぜん立てされたコースを特に疑問も不満も感じず、おとなしくペースメーカーの後について走っていたとしたら、それで新記録が出たとしても見る人が受ける感動はまるで違ったものになったのではないでしょうか。


この2人の勝負は、ゴール直前になってもハイスピードで並走していたという記述で終わっていて、結局どちらが優勝したのか、世界新記録を達成したのかといった結末は書かれていません。ただ、「山城はこの日の結果をずっと忘れなかった」という一文があるだけで、結果は読者の想像にゆだねる形になっているようです。

まあどちらが勝ったとしても、おそらく世界新記録樹立はまちがいないだろうし、その結果に日本中が熱狂したのは想像に難くありません。不運の連続だった甲本も一躍注目されてスター扱いになったことでしょう。

こういう余韻のある終わり方は嫌いではありませんが、それにしてもやっぱりどっちが勝ったのか気になる(><) もしかしたら、さらにこの話の続編があればこの大会の最終結果も明らかになるのかもしれませんし、それに期待しようと思います。野暮かもしれませんが…


後日談と前日編が気になる…
この作品の中で、読んでいてよく分からないまま終わってしまったな、という点が2つありました。

1つは、なぜ人を人とも思わない山城が学連選抜チーム、特に浦に弱いのか。

「ただ一人、自分の人生を捻じ曲げることに成功した男」「学連選抜の負けは意味のある負けだった」というように、山城にとって学連選抜での経験が大きな意味を持っていることをにおわせる文はあちこちに見られますが、具体的な描写は何もありません。


もう1つは、音無が東海道マラソンの計画に打ち込むにつれて家庭、というか奥さんとの間にどことなく不穏な空気がただよって行くことです。

音無本人は無頓着ですが、この奥さんはどうも音無に冷淡すぎるというか、旦那さんがマラソンを楽しんでいても「汗くさい」といやがったり、息子に「お父さんのようにうだつの上がらない人になっちゃだめよ」と尻をたたいて勉強させたり、どうにも旦那さんに冷淡すぎる気がします。

でも、それなら旦那さんが東海道マラソンのような大きなプロジェクトの責任者になって毎日忙しくしていれば喜ぶか、少なくとも無関心な態度を続けると思うのですが、この奥さんは旦那さんが仕事に打ち込むのを露骨に嫌そうにする。

もしかすると「仕事やマラソンに打ち込む時間があったら私を見て」というツンデレなのかもしれませんが…読みながらいつ三行半を着きつけられる展開が来ますか?とハラハラしていたのに、結局この夫婦間には何も起きなくてちょっとびっくりです。


ところでちょっと調べてみたら、山城の学連選抜時代については、ちゃんと別の作品にまとめられているみたいですね! 同じ実業之日本社から出版されている「チーム」という作品で、むしろこの本の方が先にあって、「ヒート」はその続編という位置づけだったようです(^_^;


これも近いうちにぜひ読んでみたいと思います♪ そして、続編も出れば必ず読むので、続編出ないかな~壁|ω・*)チラッチラッ


※関連記事:残り物には福がある、寄せ集めチームにはドラマがある
↑「チーム」の感想をアップしました!

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マラソン、食べ歩き、読書
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マラソン歴…約3年。
年齢…40代。
目標…サブ4.5!
名古屋ウィメンズマラソン2015のPRランナーとして始めたブログです。
2016年大会では年齢制限が厳しくなったため(悲)PRランナーになれませんが、引き続きマラソン・スイーツ・ご当地キャラなどの名古屋情報をアップしていきます。

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